第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『やだ。』
『いいじゃない、ハンバーグなんて、
2つ焼くのも3つ焼くのも一緒だし…』
『そういう問題じゃない!』
『でもコソコソしてると、
ほら、女のカン?っていうか、
変に疑われたりしちゃうかもよ?』
…今日、尾行されてたこと、
綾ちゃんには話してないのに。
それこそ、"女のカン"ってやつか?
『別に、コソコソしてねーし。』
『だったらますます、
悪いことしてるわけじゃないって
ちゃんと安心させてあげないと。
だから、連れておいで、ね。
一緒にご飯、食べ…』
『やだって言ってんじゃん。』
…イヤに、決まってる。
なんでかっていわれたら、
『なんで、わかんねーかな?』
『…』
『ね、悪いこと、ってどんなことだよ?』
『…それは、』
『昨日の夜、みたいなこと?』
『…あれは、私のだらしなさが…
いっちゃんは、悪くないから…』
『なにそれ。
俺はイヤイヤだったと思ってんの?』
『…引きずり込んだのは、私…』
なんで、
なんで一緒に感じてたって
認めてもらえないんだよ?
ホントは俺が勝手につきまとったのに。
『じゃ、俺がこうしたら、』
危険を察知して
逃げようとした綾ちゃんを
ギュッ、と、強引に抱き締める。
『…や、め、』
『全力で拒んでみたら?
悪いことするな、って押し退けろよ。』
『…いっちゃん、離して。』
『やだ。』
『じゃ、ここに来ちゃダメ。』
『やだ。』
『もうハンバーグ、作らないよ?』
『やだ。』
『お願い。』
『やだ。』
…どうしよう。
困らせてるってわかるのに、
引っ込みがつかなくなってきた…
『やだやだばっかり…』
『やだ。』
『…いっちゃん、反抗期みたい。』
『そー。俺、反抗期。』
クククッ。
腕の中から、小さな笑い声。
『いっちゃん、かーわいぃ。』
『かわいく、ねーし。』
『ううん、すっごく、かわいぃ。
ほら、こんなとこに、見て。』
?
腕をほどいて、綾ちゃんを見下ろす。
…指先に、オレンジ色のご飯粒。
『シャツに、ついてた。』
プッ。
『なんだよ、ホントに、ガキじゃん。』
『ね?かわいいでしょ?』
笑ってしまう。
…俺のつまらない意地で
怪しい雰囲気になりそうだった空気が、
オムライスの卵みたいに、ふんわり、緩む。