第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『…それはさ、言わなくても、
うまいって思ってたはず、きっと。』
会ったこともない旦那や息子の
味方をするつもりは、全然、ない。
むしろ
綾ちゃんの味方をしたいからこそ、
そんな慰めを口にしてしまうんだ。
そんなの
何の役にも立たないってわかってるけど、
それしか、出来ないから。
『だってホントにうまいもん、ほら。』
カラッポになった皿を2つ、
綾ちゃんに見せる。
『…ありがと。』
ニコッと笑った綾ちゃんは、
テレ隠しのように、
鼻の頭を擦りながら言った。
『あたし、ダメだなぁ。
いっちゃん、聞き上手で慰め上手だから
ついついいっつも、弱音、はいちゃう。
高校生に頼るなんて、大人失格だね。』
なんだろう。
この、複雑な気持ち。
頼ってもらえて嬉しい。
話してもらえて嬉しい。
なのに、なんでそこに、
"高校生"ってつく?
『高校生じゃ、ダメなわけ?』
『ん?』
『高校生が相手したら、
綾ちゃんは大人失格なわけ?』
『…そりゃ…』
『なんで?
俺が高校生じゃなければいいわけ?
大学生だったら、頼っていいわけ?
歳の差なんて、一生、縮まらないじゃん。
男と女、っていうのじゃ、ダメなわけ?』
『…いっちゃんは、ホントにいい子だね。
静が立派に子育てしてきた証拠だ。』
『俺、もう高校三年!
"いい子"じゃねーしっ。
いつまでも、俺とあの人、
セットで考えんの、止めてくんない?
ほとんど、家にいねぇんだし。
子育てっていう程のことしてねぇだろ。』
『…いっちゃんが静の息子っていうのは、』
綾ちゃんの声は、
とても、苦しそうで。
『私にとって、最後の砦。
そのストッパーがなかったら、
私、きっと、すぐ、
年甲斐も見境もなくグラッといっちゃう。
だって、今、私を必要としてくれてるの、
世界中で、いっちゃんだけだもの。』
言葉が、ビリビリする。
『…それは、ちょっと大げさじゃ…』
『ううん、そうなの。
離婚してみてわかった。
もう誰の世話もしなくていいけど、
逆に言えば、誰にとっても
どうでもいい存在なんだな、って。
誰にも縛られないけど、
誰にも寄りかかれないんだな、って。
…そんな時に、
いっちゃんみたいに言ってくれる人がいたら
グラッときちゃう。ホント、私、弱い。』