第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『いっちゃん、タマゴ4個、割っといて。』
玉ねぎを切りながら、綾ちゃんが言う。
『タマゴ、4個…』
冷蔵庫を開けて玉子を取り出し、
皿にむかって1つ目を握りしめた。
…カッ。
割れない。
もう少し、強く、かな。
…コッ。
あれ、玉子って
案外、割れにくいもんだな。
…ガゴッ。
『ぅあ!』
手のひらに、
小さなギザギザの殻と
ヌルッとした透明と黄色。
『綾ちゃん、やばい!』
包丁を動かす手を止めた綾ちゃんが
笑いながら来る。
『もしかして、料理、全然?』
『…そういえば、ほとんど経験ない。』
『部活してたら、そんなもんかもね。
…ほら、手、洗って。』
手を洗う俺の横で、
綾ちゃんは片手で器用に玉子を割る。
『スゲッ!はやっ!』
『主婦歴、長かったからね。
…混ぜるだけなら、出来そう?』
『フツーにすりゃいいんだよね?』
『ん、まぁ、とりあえず、やってみよ。』
グルグルグルグル。
玉子をかき混ぜる。
…黄色と透明が、うまく混ざらない。
『ね、綾ちゃん、
これ、なんか、ちょっと違くね?』
鶏肉を炒めながら首を伸ばし、
器を覗き込んだ綾ちゃん。
…笑ってる。
『いいよ、それで。置いといて。』
『ごめん、俺、
思った以上に役にたたないな。』
『向こうでテレビ見とく?』
『邪魔?』
『全然。私は、いてくれたほうが楽しい。』
『じゃあ、ここにいていい?』
『もちろん。』
役にはたたなくても、
せめて、
邪魔にならないように気を付けながら。
綾ちゃんの隣。
『綾ちゃん、それ、何?』
『隠し味。オイスターソース。』
『あれ、ご飯は?』
『私、先にケチャップ、炒めるの。
水分飛ばしてからだとご飯がベタって
ならないからねー。』
『タマゴ、混ぜる時は、
こうやってお箸、斜めにして…』
『あ、俺にもやらせて!』
『おぁー、すげっ!
タマゴふわっふわ、うまそ!』
『オムライスは、これが決め手よね~。』
小さな台所でよかった。
すぐ、そこにいる。
触れようと思えば触れられるけど、
触れなくても、充分、楽しくて。
…やっぱり俺は、こうやって
フツウに笑う綾ちゃんの顔が、
一番、好きだ。
好き、だ。