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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)




おっちゃんの制止を振り切って
人混みに逆らうように走り出す。

陽が落ちるのを待っていたように
ポツポツとネオンが灯り始めてて、

ザワザワと、
浮わついた足取りで夜の街に向かう
サラリーマンの群れ。

…もう、こんな時間か。
すっかり計画が狂ってしまった。
この時間以降は
知り合いに会う確率が高くなる。
頼むから、これ以上、
誰も邪魔しないでくれよ…

そう思いながら、とにかく、走った。

昨日、タクシーで
手を繋いで移動したときには
あっという間に感じた距離も
こうしてみるとすごく遠く感じる。

手にしていたペットボトルを
途中でイッキ飲みしたら
荷物が軽くなった。
…そっか、荷物、減らせばいいんだ。
開けてない袋菓子も、
空のペットボトルと一緒にゴミ箱へ。

コンドームだけポケットにねじ込んで
腹をタプタプいわせながら、
再び走り出した。

横腹が痛い、とか
ゲップが出そう、とか
そういうのも、全部、無視して。

こんなに無心で走ったこと、ない。

もし、今、誰かに声をかけられても
気づきたくないし。

もし、今、立ち止まったら
あれこれ邪念が浮かびそうだし。

もし、今、立ち止まったら
もう、走れなくなりそうだし。

だから、
綾ちゃんのアパートの階段も
一段飛ばしで駆け上がって、
部屋の前に着いた時は
ちょっと休憩したかったんだけど、

誰かが階段を上がってくる音がしたから
こんな姿、絶対、怪しまれると思って、

グッズグズにくたびれてたけど
必死で普通のふりをして
玄関ドアを叩いた。

ドンドン、ドンドン。

ここから見える小さな窓には
…あそこは確か、小さな台所…
蛍光灯の灯りがついてるし、

部屋の中からは、テレビの音もする。

だからきっといるはずなのに
なかなか返事がないから、

ドンドン、ドンドンドン!

もう一回、
さっきより激しく、ドアを叩く。

『…どちら様、ですか?』

小さな、声。
聞きたかった、声。

『綾ちゃん、俺。』

一瞬の間のあと、ドアが細く開く。

『…いっちゃん?!』

片目が覗くくらいの隙間しかないのに、
綾ちゃんのびっくりした顔が
目の前に見えた気がして、

嬉しくて。

…迷子になった犬が、
大冒険の末、飼い主に逢えた時って
こんな気持ちなのかな、なんて
唐突に、思った。

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