第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
『…その人、名前は?』
『名前?知るか!
リコピンの名前も知らねーのに。』
リコピン?
…あぁ、さっきのお気に入り店員のことか。
それ、どーでもいいし。
『店の名前とか…』
『店?んー、なんつったかなぁ、
なんか、一文字だったような…』
『あ?二文字じゃなかったか?』
『簡単な名前だったよなぁ、』
『そうそう、
漢字だかアルファベットだかカタカナだか
よくわかんねぇけど、簡単な。』
…簡単なら、覚えといてほしいけど。
『どこなの?その店。街ん中?』
『そうそう、どっかその辺のビルの、』
『3階か、4階って。』
…びっくりするほど役にたたない情報ばかり…
『ぁんだ?一静、お前まさか、
"シメはラーメン"の男の約束、裏切って
"コーヒー派"に乗り換えるつもりか?』
『熟女オーナーに興味があるなら、
やめとけやめとけ、まだお前じゃ青い。
そーいうのは俺達ベテランに任せて、
お前は春を楽しめ!』
『そんなんじゃ、ねーし!』
ザザザザザッ…と
飯を入れてリゾットみたいになった
トマト麺の残り汁をかきこむ。
『あー、もう腹一杯!ごちそーさん。』
『そっか。じゃ、行くか。』
レジを担当してくれたのも
さっきの"リコピン(笑)"で、
おっちゃん二人は、またご機嫌に
デレデレしながら店を出てくる。
『じゃあな、一静。まっすぐ帰れよ?』
『俺らと一緒の時は"保護者同伴"だけど
お前1人になったら、補導されっからな。』
『お前になんかあったら、
俺らが、かかぁや静ちゃんに怒られる。』
『なんだ、俺の心配より自分の心配?』
『当たり前だ、本気で怒った女には
どーやったって勝てねぇんだから。』
『リコピンのことも、内緒にしとけよ!』
『りょーかい(笑)』
『じゃあな。静ちゃんによろしく!』
俺に手を振って、
じゃれながら歩き始める二人を見送る。
…なんか、本当に、
及川と花巻の二人組を
見てるような気がする。
年齢は二倍以上違うのに、
言ってることは高校生レベル…
そんで、羨ましいくらい楽しそうだ。
それを見て、
苦笑してしまう俺も俺だけど。
大人の世界、覗きすぎかもな。
…さて。
未成年は、帰るか。
帰るぞ。
帰らないと。
帰るんだって。
帰り道は、あっち。
こっちじゃなくて、
あっちだってば、俺の足!
