第5章 お台所と料理人 の段
「し、しんべヱ、何言ってるのかな・・・☆」
努めて男らしく『』らしくその声は長屋に響いた。
だが、そんな努力など無意味かというごとく、全く気に止めない・・・いや、何も気付いていないしんべヱはニコニコ笑う。
そんなしんべヱの周りで、は組(きり丸以外)はさらにキラキラと目を輝かせていた。
(き、きり丸~・・・何があったぁ~?・・・汗)
は事情を知る唯一の味方、きり丸を仰ぐように見る。
だが、きり丸は、両手を広げて手のひらを天に向け、諦めの表情を浮かべて、音もなく口をパクパクさせた。
矢羽音でもない、ただの口パク。
きり丸のその動きを、は読唇術でしっかり読み取る。
『逃げて』
(えっ? 逃げろ?)
きり丸の言葉をしっかり読んだだったが、意味がわからず一瞬停止する。
だが、それは致命的な失敗だった。
その一瞬を逃さず・・・
「さん、料理上手なんだったら、きっといいお嫁さんになるね♪ 」
食をこよなく愛するしんべヱは、心底深く頷きながら『』を見つめ、ダラダラよだれを垂らし、輝く瞳を見せ・・・
「「「「本当に女なんですか!?」」」」
は組の良い子達は一気に『』を取り囲んだ。
「うわっ、ちょ、みんな落ち着いて!!」
小さい子どもがまとわりつく。
力で払いのけるのは大人げないと一瞬躊躇ったは、一気に良い子の波に飲まれた。
「うわ~、ち、ちょっと待ったぁ!?」
ドサドサドサドサッ!!!
勢いに押されたは廊下に倒れこみ・・・
「「「「うわ~い♪」」」」
その上から次々抱きついて倒れこんでくるは組に押し潰された・・・。
(いったぁぁぁ、傷、肩の傷ぅ・・・)
強烈な痛みが肩から突き抜ける。
が怪我をしていると全員に公言した訳ではない。まして、どの程度の怪我をしているかの具合など、なおさらだ。
まぁ、言ったところでお茶目なうっかりは組達は突っ込んで来たかもしれないが、それにしたって遠慮なしの子ども達はワンパクだ。
「ちょ・・・っ・・・苦し・・・」
押し潰されたは苦悶の声を上げる。
すると不意にー
「こぉら、お前達!」
声と共に、はフワリと引き上げられた。