第1章 きり丸の拾い人 の段
長期の休みがまた終わろうとしていたある日
長屋には一時の静寂が訪れていた。
「そろそろ夕食の支度をしないとな」
そう呟き、土井半助は立ち上がる。
きり丸がベビーシッターで預かっていた子供達を返しに出掛けてから、いい時間がたっている。そろそろ帰ってくるだろう。
洗濯は畳み終わった。
いつしか外は、なかなかの雨模様。
「ここにあるもので適当に済ませないとな」
明日には学園に帰らなければならない。
傷みそうな食材を片付けてしまおう。
そう思い、晩の算段をたて始めた半助の耳に、外のただならぬ気配がふいに伝わった。
「土井先生ー!!」
ガラガラっ、と戸が大きく開く。
忍たまらしからぬ派手な音をつれての登場に説教をしてやろうかと思ったのも束の間、現れたきり丸が血を纏っているのを見て慌てて半助はきり丸の肩を掴んだ。
「どうしたんだ、この血は!?」
聞くと、雨の雫を滴らせたまま、きり丸は外を指差した。
「土井先生! 利吉さんの友達が、ちょっと向こうの茂みの中に倒れてる!!」
血は、その『利吉くんの友達』とやらが流しているものらしい。
きり丸の体では、さすがに大人の怪我人は運べない。
とりあえず、半助に助けを求めに来たのだ。
「不味いな・・・」
半助の脳裏に危険の色が灯る。
雨が降っている、怪我をして出血しているなら、一刻を争う。放っておくと命に関わる。
「きり丸、案内しろ!!」
詳しくは道すがら説明させることにして、半助はきり丸を促し、現場へ走り出した。