第2章 乙ゲーにハマった理由
「あっ!ゆり先生がおとこの人とらぶらぶしてる!」
「ほんとだ!らぶらぶだ!」
「けっこんするのー?」
私の頭に置かれていた手の感覚がさっとなくなる。彼の顔は真っ赤に染まっていた。そんなに赤くなられると、私まで赤くなっちゃう。いやいや、ここは保育園の先生として、しっかりしないと。
「ゆり先生は結婚しませんよ〜。好きな人がいるんですー」
なんだ〜、と残念な顔をしながら、それぞれの遊び場に戻って行く。これだから年長組は……。恋愛関係にやたら敏感になるんだから。
「すみません。年長組の子達はやたらませちゃってるんです」
「いえいえ。可愛らしいですね。最近、葉月もやたら俺に、彼女いるの?とか、結婚しないの?って言ってくるんです」
そういえば、葉月ちゃんも年長さんだった気がする。確かに、女の子はさっきの男の子達以上に敏感だからなぁ〜。
「私も葉月ちゃんによく聞かれます。先生はどうして結婚しないの?って」
その時のことを思い出して、少し笑いながら話すと、彼が驚いた顔をする。
「結婚してないんですか!?」
「え?はい、してないです」
既婚者みたいな顔に見えるのかな。
「意外です。いい奥さんなんだろうな、と思ってただけに衝撃が大きいです」
「ふふっ、何ですか、それ」
変わった人だ。
あ、そういえば名前を聞いていなかった。
「すみません、良ければお名前を教えて貰っても?」
あえて突っ込まなかったけど、マスクをつけて、伊達メガネをかけている時点で、私はひとつのことを疑ってる。どこからどう見ても怪しさ満点だけど、あえて突っ込まないでいた。
なぜなら。
すごく知っている声だからだ。
「あ、そういえば名乗っていませんでしたね」
心臓が高鳴る。
待て待て。落ち着け。
まだそうと決まった訳では無い。
「下野です。下野紘」
きたぁああああああっ!