第2章 乙ゲーにハマった理由
「ゆりせんせー」
せんせいのおへや、と書かれた看板がぶら下がっている扉が開かれ、私の名前を呼ぶ声がした。愛華ちゃんだ。
「どうしたの?」
にこりと微笑んで、優しい声で話しかける。子供たちはすごく可愛いから、意識なんてしなくても自然とこうなる。裕くんの時はこうはいかないのに。いっつも意識してないと、ボロが出ちゃう。
……じゃなくて。
今は裕くんのことは関係ないじゃない。
「あのね、はづきちゃんのお父さんが来たの」
葉月ちゃんのお父さん?
葉月ちゃんは父子家庭だから、お父さんが来ることは別に珍しくはないのだけど、時間が早すぎる。今はまだ3時。葉月ちゃんのお父さんが来るのは、いつも5時を回ってからだ。
「そう、ありがとう。すぐに行くね」
怪しい人だとしたら、葉月ちゃんだけじゃなく、他の園児も危ない。園児達に不思議に思われない程度に急ぐ。
橘先生はお遊戯の部屋で読み聞かせ。
伊藤先生は砂場で砂遊び。
小倉先生と東先生は乳児の子守り。
他の先生方は当番じゃないから、帰ってしまった。
そして私は先生のお部屋で緊急事態の時のために待機。
となれば、他の先生を応援に呼ぶ事は出来ない。
ポケットに忍ばせたスマホをぎゅっと握る。最悪、私がどうにかなっても、警察を呼べば何とかなる。