第1章 0と1が創り出すシナリオ
「……?」
気づけばゲーム機のメモリーカードが容量不足なことに気づいた。せっかくあの人気タイトルの格ゲーの新作限定版を予約したのに。これは死活問題である。
「(行かなきゃ)」
適当に外に出られるような格好して、鍵と財布だけ持って何日かぶりの外に出た。帽子とメガネは忘れない。
着いた先は近くの家電量販店。ここは個人経営の店だから全国チェーンの店より少し安値で売っているから重宝している。
しかしこの店の立地には少々難点がある。
「(ビロードウェイ…)」
ビロードウェイがスグそこにあるということ。
この通りには一昔前までは沢山の演劇ファンや演劇人で溢れかえっていたが、今では見る影もない。
「(もう自分には関係の無いこと)」
そう言い聞かせて1番容量の大きいメモリーカードに手をかけようとした。
「ん?」
「…」
私の手と誰かの手が触れ合って、反射的に身を引いた。
「ごめんね、ビックリさせちゃった?」
その人の目を見た。キラキラしたオーラを纏ったその男は、申し訳なさそうにこちらを見ながら目を合わせてきた。
「…いえ、大丈夫です」
「そう?…あ、これが欲しかったんでしょ?どうぞ。」
キラキラさんから手渡された1番容量の大きいメモリーカード。目を合わせず「ありがとうございます」とだけ言うと、「いえいえ」と少し含み笑いをしながら返した。これ以上居座る理由もないため、キラキラさんに軽く会釈をしてレジへ進む。それに倣うかのように、キラキラさんも私の後ろに並んだ。
私と全く同じレジ袋をぶらさげてキラキラさんは「じゃあね。また会えるといいね」とビロードウェイの奥へと消えていった。
「(あの人も演劇やってるのかな)」
あの人が渡してくれたメモリーカードを見つめながら、答えの無い問の答えを探した。
やっぱり見つからないのだけど、なんだか今なら答えが見つかる気がした。
「(変な女。)」
先ほど安上がりな家電量販店で出会った女。オドオドはしていないものの、目が合わなかった。
合わないと言うよりは、合わせない、という無意識にも似た意志が見えた気がしたのだ。
「(まぁ、もう会わないと思うけど。)」
会わないとは思うけど、なんだか気になる女だ。
後ろ髪なんて無いに等しいが、後ろ髪を引かれている気がした。