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短編集【krk】

第1章 我儘な隠し事(青峰)


着いたところは屋上。
普段、大輝が昼寝しに来ている所だけど今は誰も居ない場所だった。物陰に身を寄せ、私は必死に堪えていた涙を誰にも見られないこの場で出した。

嫌われたくないに決まっている。本当は一緒に夢を目指したかった。約束だって守りたかった。バスケに興味がなくなったなんて嘘。でも、続けられない。

『試合中の事故で私の膝は使えないものになった』

普段生活する上では問題はない。ただバスケのような膝に負担のくる行動をしてしまえば2度と歩けないものになってしまうかもしれない。そう医者に言われた。治療をすれば治る確率はあったが、高校生活は治療でつぶれる。
そんな体になってしまったと知れば、大輝は心配するだろう。なんだかんだ優しいから気を遣わせてしまう。それで大輝の迷惑になるくらいなら嫌われてしまった方が、大輝のためになる。

失望させてしまっただろうな。
バスケを辞めるということは、バスケを出来るのにしない人として大輝の傍から離れられる。バスケが出来ない哀れな存在として消えたくはなかった。全て私の我儘。

そもそも、生きる世界も違っていたんだ。その差に苦しめられるくらいなら離れて正解だったのかもしれない。下手ではなかったが、天才ではなかった私。もう一人の幼馴染であるさつきだって、分析力という取り柄があった。だから、近くに居ても、違和感がなかったし。何より、大輝の好きな胸の大きな女子力のある女の子っていう存在だ。私は胸が大きいわけでもなければ女っぽくもない。それに加えバスケが出来ないとなれば、本当に何もない。

「本当は、バスケも大輝も…好きだよ…。でも、出来なくなった体の私なんて…見せれるわけないじゃない…」

私の声は誰にも聞かれず風に流されるように消えていく。
これからつまらない生活が始まるんだろう。バスケだけでない大輝と一緒に過ごした時間が一番私にとって楽しい時間だったけれど、もうそれも叶わなくなった。同じ高校だから、顔合わせてしまうだろう。家も近いから猶更。でも決めた以上私は約束を破った最低な女として彼の目には映るように演じよう。

「約束守れなくてごめんね…」

最期の素の私は、今ここで心の奥に隠してしまおう。誰であろうと嘘の私を最後まで…。


End
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