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名の無い関係

第18章 問題は山積み


最近の訓練は特に馬術に重点が置かれている。
エルヴィン考案の索敵型陣形で最も重要になるからだ。
それに馬との絆は関わり合い、触れ合う時間の長さで強くなっていくもの。
当日は自分の足の代わりになって走ってくれる愛馬に、命を預けると言っても過言ではない。
指笛の合図に即座に反応し、戻ってくる様に調教するのは大前提。
巨人に追われた際、どんな指示でも言う通りに走り続けてくれるようにしておかなければならない。
丸一日を各自愛馬と共に過ごし、兵舎に戻ると新兵達はよろよろ歩きになる事も少なくない。


『なんか仔馬みたい。』


今日もクタクタになった兵達が帰ってきた。
その様子を見下ろしていたアゲハはクスクスと笑った。


「君は初めからなんでもソツなくこなしていたな。」

『動物、好きだからね。人間相手よりも余程簡単よ。』


彼等は人と違って裏切らないもの、とアゲハは言った。どうやら機嫌が悪いらしい。
彼女がマイナスな含みを持つ言葉を口にする事は珍しい。
そしてそんな事を言う時は決まって機嫌が悪い時だ。
こんなタイミングで伝えなければならないのは気が進まず、自分で呼んだはいいがまたの機会にしようとそっとそれを他の書類の下に滑り込ませた。
まずは彼女の機嫌を損ねている原因を探さなければ。


「ピクシス司令官と上手くやってくれているらしいな。」

『そうしろと命じたのは誰よ。』


好きでもないのにチェスを覚え、調査兵団とは直接関係の無い貴族の屋敷にまでピクシスに連れられて行く事もある。


「君は本当に期待を上回るよ、バルト侯から手紙が届いた時にはヒヤッとしたが。」


探っていると諭され無い様に、いつもと変わらず目の笑ってい無い笑顔で言ったエルヴィンに、アゲハの表情はどんどん引きつっていく。
どうやらエルヴィンの予想は的中したらさい。


「君が粗相をしたとは考えられなかったが、まさかラブレターだとは。」

『やめてよ、気持ち悪い!』

「事実だろ。」


バルト侯からの手紙には今後の調査兵団の壁外調査費用を支援する代わりに、アゲハを私兵にしたい。そう書かれていたのだ。


「正直、悩んでしまったよ。」

『エルヴィン!!』


冗談だ、と言うと彼女は大きなため息をこぼす。
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