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名の無い関係

第17章 離れる距離と近付く距離


乱れたシーツ、脱ぎ捨てた服がカウチに散らばる。
心地良い疲労感がすぐに睡魔を連れてきた。彼の体温を感じながら、私は意識の糸を手放した。


『地下街?』

「あぁ。昔、巨人から逃げる為に作られたらしい。」

『そんな所があるんだ。』

「今は犯罪者の巣窟だよ、ナイルもそこまで手が回らないと嘆いていた。」

『回さない、んでしょ。』


君は相変わらず厳しいな、と彼は笑った。
憲兵団の連中が好き好んでそんな厄介ごとしかないような所に手を出すわけがない。


「妙な噂話があってね、そこには立体起動装置を使う蝙蝠が住み着いているらしい。」

『蝙蝠?』

「本当にいるなら見てみたいだろ?」


エルヴィンの目は子供の様だ。
これはきっとまた何か企んでいるに違いない。


『それならあの件、同時にやっちゃえば?』

「そうだな、それもいいな。」

『囮はどちらにしろ平和な生活なんて出来なくなっちゃうんだし。』


蝙蝠だろうが犯罪者だろうが、どの道真っ当に太陽の下で暮らせない。
今回の計画には、全く兵団とは関わりのない第三者が必要なのだ。


「そろそろ蒔いたタネが芽吹く、君も一緒に地下街に見に行くか?」

『やめとくよ、私が行くのは本命が動いてから。』


懐かしい夢を見た。
エルヴィンに初めて同行して王都に行った日の事。まるで違う国に行ったみたいだった。
二人で泊まった宿の寝具もまるで王族にでもなったかのような心地よさで、思えばあの日以来だ。王都に行ったら必ずこの宿に泊まると決めたのは。
女将さんもいい人だ、私とエルヴィンの微妙な間柄にも気が付いているだろうに全く態度に出さず、無用な干渉も一切ない。
貴族連中や中央政府の連中を相手にしなければならない事は物凄く嫌だが、兵団から離れるこの時間は他の兵達の目を機にする事もなく過ごせる唯一の時間でもある。


「おはよう。」

『…おはよ。』


あぁ、夢の続きのようだ。
けれど彼はあの時よりもだいぶ老けたように見える。
それだけ多くのものを失い、多くのものを背負っているのだろう。


「どうした?」

『夢を見たよ、懐かしい夢。』

「いい夢だったのか?」

『どうかな、忘れちゃった。』


彼の体温を感じながらこのままもう少し眠りたい。
次に目を覚ましたら、また、嫌いなお仕事が待っている。
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