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名の無い関係

第15章 決断と結果


目的地までまだ半分も来ていないと言うのに、急な雷雨に襲われ急遽廃城で天候の回復を待つ事になった。
幸い、小高い丘の頂上にあるこの廃城には巨人の侵入を防げる程では無いが外壁がまだしっかりと残っており、更に堀が深く周りを囲んでいる。
この城を建てたかつての主人は相当な臆病者か、余程敵に攻め込まれるような事をしていたのか。
どちらにせよ、壁外という巨人の世界に残っているこの廃城は調査兵団にとっては最高の野営場だ。
過去の調査で補給物資をここには保管していた。
それも大半が無傷で残っており、このまま数日ここで足止めを食らったとしても全員が不自由なく、安全に過ごすことが出来るだろう。
各隊が交代で見張り、近付く巨人は速やかに排除出来ている。
悪天候では巨人の方もあまり活動が出来ないらしい。
これだけの人間が同じ場所に留まっている割には、近付く巨人の数が少なく、また、討伐時の蒸気も激しく降る雨に消され彼等の仲間を呼ぶ合図にはならない。


「これを好機ととるか…。どう思う?」

「確かに巨人の活動も鈍い様ですが、今動くのはリスクが高過ぎます。」

「私も反対です。この天候では信煙弾も使えませんし。」


予定していた進行予定がかなり遅れてしまう事は仕方がない。


「ここまで負傷者のみで来ています。今、無理に進軍しては必ず死者が出ます。それに負傷者は見捨てなければならなくなる…。」


キース団長、エルヴィン兵長、それぞれの隊長、特別班の班長。皆の表情が曇る。


『ここで本体を大きく二つに分けるのはどうでしょうか?』

「分けるだと?」


退屈そうにこの場に一応顔を出していたアゲハはそう言うとニヤリと笑う。


『負傷者を連れここに残る、もしくはここから引き返す隊を一つ。無事な者とここから更に進軍する隊を一つ。まぁ、どちらも今よりもう少し天候が回復したら、の話ですが。』

「確かに、負傷者を連れたままの進軍は更に遅れを招くだけだしな…。」

「ならば俺の隊は負傷者の看護とここの防衛に就く。」


キース団長の承認が出る前にザワザワとその割り振りが勝手にされていく。
黙っている彼の表情は相変わらず重い。
アゲハは自分が提案したといえど、勝手に独り歩きし始めてしまったことに戸惑った顔をしていた。


『…ちょっと…。』
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