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名の無い関係

第7章 あの日


訓練兵団を優秀な成績で卒団する者は、その後正規兵としてどの兵団に所属するか、自分の意思で決める事が許される。
大半の者が憲兵団を希望し、憲兵団の方もより優秀な兵士を入団させたいとそれを受け入れる。
それ以外の兵士は、各訓練兵団からの報告や教官達の評価を元に各兵団に割り振られていく。
大概、成績優秀者の希望者で憲兵団は定員となる。
残りの兵士を駐屯兵団と調査兵団に分けるのだが、その数は同じではない。
調査兵団には本人からの希望があるか、ないかが重視されていた。
だから勧誘式がある。


「うひゃー、みんな若々しいね。」


今年はここから何人が調査兵団に来るのだろうか。
初々しい敬礼姿が並ぶ。
そんな中、若いというよりまだ幼い感じの兵がいた。
今期の新兵の中では優秀な人材だと噂されていたアゲハだ。


「欲しいな、あの子。」

「エルヴィン?」

「興味がわいたよ。」


先輩兵士として、調査兵団への勧誘をしに来ていたエルヴィンとハンジ。そして団長のキースを前にしても彼女は敬礼しなかった。
結局、彼女は勧誘式の中で一度も敬礼をする事はなかった。
憲兵団はそれを理由に彼女の入団を拒否するつもりでいたらしいが、彼女から入団希望がなかった。
優秀な人材は欲しいが、規律を乱す様な兵士はいらないと言うのは当たり前の事だ。


「調査兵団で駒にすればいい。」

「いくら人数がいても足りないだろう。」


本人からの希望は特になかったらしく、半ば押し付けられる様な形で彼女の入団が決まった。
まずは兵士とはなにかから教え直さなければならないのか、とキースは頭を抱えたがそれは無駄な悩みだった。
敬礼しないことを除けば、彼女はとても優秀だった。
立体起動を使用しての対巨人戦闘訓練も、座学も優秀。
兵士として兵団の規律もきちんと守れる、ただ、敬礼をしない事を除いて。


「ねぇアゲハ、どうして敬礼しないの?」


今夜も一人、敬礼をしなかった罰として走らされた彼女は、クタクタになって宿舎に戻って来た。
今からの時間では入浴は許されない。
だが、汗や埃にまみれたままで休むのは嫌だと彼女はハンジと一緒に屋外の井戸にいた。


『だって、私の心臓は私のものよ?』

「まぁそうだけどさ。それは物の例えでしょ?」


タオルを持ち、水浴びをする彼女を眺めながらハンジは苦笑いをした。
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