第24章 秋の夜長
「相変わらず見事ね。」
アゲハは愛馬と一緒にかなりの速さで森の中を走る。
彼女が訓練に出る姿を見るのが初めての兵達にはいい刺激になっているだろう。
まるで木が避けているようだ、と言わせる見事な馬術は長年の経験と愛馬との絆からだろう。
アゲハの攻撃隊と組む索敵隊の隊長にはナナバが就いた。
連携を確実なものにする為に、と彼女が訓練に出る時にはアゲハはよく一緒に訓練に出る。
『ナナバ〜、信煙弾を撃って。』
「了解。」
真っ直ぐに腕を空へ。
小さな銃から撃ち出された赤い煙は、真っ直ぐに伸びる。
当日も今日の様に穏やかな天候であれば、距離がかなり離れていてもこの合図が届くだろう。
「どうですか?」
森の中からは彼女の愛馬だけが先に戻って来た。
ユラユラと風に消されていく赤い煙のラインを切る様にワイヤーが伸び、空をアゲハが飛んだ。
『あちゃー、遅かったか。』
どうやら合図を見て駆け付ける場合、馬での移動と立体起動での移動、どちらが速いかを試していたらしい。
かなりの速さで飛ぶ事が出来るアゲハでさえ、馬にかなわないらしい。
「腕が落ちてる、サボり過ぎだバカ。」
『そんなこと!…あるかもしれないけど。』
彼女を追い掛ける様に同じく立体起動で森から飛び出して来たリヴァイは呆れ顔。
久々の実戦訓練なんだから仕方がないじゃない、とアゲハの落ち込み様にナナバはフォローを入れた。
「それに殺ろうとしたらヤレたぞ、俺の気配も感じてなかっただろ?」
『…ゔ、そんなこと!』
無いとは言えない、とアゲハは口籠ってしまう。
彼女にしたら久々で、ただ森の中を飛ぶ事が気持ち良くて、楽しくて、訓練という危機感が薄れてしまっていたのだろう。
「それに筋力もかなり落ちてる。」
『………。』
「そんなんじゃすぐに巨人の餌になるだけだろ。」
どんどん落ち込んでいくアゲハに、リヴァイはまだまだ指摘する箇所がある!と厳しい言葉をぶつける。
「ちょっとリヴァイ!いい加減にしなさいよ。」
終にアゲハはがっくりと肩を落としてしまった。
『今日はこの後自主トレね…。来週から陣形訓練はやります。』