第21章 ワルツ
曲に合わせ、かなり強引に手を引かれ思い切りターンさせられたアゲハはなんとかダンスとしての形を保つのが精一杯で、言葉が上手く繋がらない。
そもそも、貴族の相手をする様になってから覚えたまだまだ未熟なダンス。
急に動きを変えられては、合わせているだけで精一杯になってしまうのは仕方がない。
「折角の仮面舞踏会なんだ。今夜は私も君も、好きに過ごそうじゃないか。」
『ちょ、エルヴィ…んっ!!』
曲がフィナーレへと向かい、最後のポーズだとエルヴィンはアゲハを強く抱き寄せるとそのまま彼女に口付けた。
いつの間にか周囲の視線は二人に集まり、まるで恋愛物語のワンシーンの様な光景だと祝福する様な拍手がわいた。
突然過ぎる事ばかりで、大きな瞳を更に大きく開いたまま、されるがままだったアゲハはその音に我に返った。
抱き寄せられていたエルヴィンの腕を振り解き、恥ずかしさのあまり会場から走って逃げ出したのだ。
「いやいや、サプライズとは言ったがこれはランスには刺激が強かったんじゃないかな。」
一人、ダンスホールに残っていたエルヴィンにヨハン子爵はご機嫌に声を掛けた。
「あまりにも魅力的なお嬢様だったもので。」
「そうだろう、兵士にしておくのが勿体無い。」
「そうかもしれませんね。ですが、彼女は調査兵団(わたしたち)のものですので。」
エルヴィンはあくまで笑顔を崩す事なく、柔らかい口調でそう言った。
そして、軽く頭を下げると仮面を外した。
それにはヨハン子爵もどういうつもりなのか、と怪訝そうな顔をする。
「では、私も今宵は失礼致します。ダンスよりも戦場の方がどうも居心地がいいですから。」
外した仮面を給仕に歩いていた青年に渡すと、堂々とその場を後にした。