第1章 彼の話
「マスター?」
「っえ…?あ、あ…え、と……」
私が惚けていると、カツ、と高級な物だと一目でわかる真っ白な靴を鳴らし彼ーーアルジュナは私の元へと近付いてきた。
「アルジュナ、さん……?」
「ええ。私はアルジュナです。…ですが、今は主とその契約者の関係。敬称はいりません。どうか、『アルジュナ』とお呼びください」
「あ、じゃあ、アルジュナで……」
目の前に立つ彼の名を呼ぶと、にこりと、それは万人が恋に落ちてしまうくらいの美しい笑みを見せた。
「よろしい」
そう、それは美しい笑みなのだけれども、どうしても私にはそれが『偽物』の笑顔にしか見えなかった。
すっと細くなった目は、一見笑っているように見える。
しかしよく見てみると、瞳の奥の奥。
そこには何も、無かったのだ。
何もーーーーー。