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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第9章 牙


その夜は眠れそうになかった。
あの後は何事もなく掃除を済ませて、ジルたちとともに夕食をとり、夜の礼拝をした後にそれぞれ自室に戻り、入浴をすませてベッドに入った次第であった。
私は壁の方を向いて体をくの字に曲げており、セバスチャンがその横に同じようにくの字に体を折って私の体の上に腕を乗せていた。
カチコチと規則的な針の動く音とたまに聞こえるシーツの擦れる音だけが部屋を満たす。

『あなたは私の大事なものなんです』

この言葉が私の頭から離れない。私は大事にされていると思うと嬉しいが、それは契約関係だからこそだと気付かされると苦しい。

「っ…あんっ…お、兄様…」

艶めいた声が壁の奥から聞こえた。私はその声にびくっと体を震わせる。お兄様と言っていることからしてきっとマーガレットの相手はジルなのだろう。
耳を澄ましてみると淫らな水音も聞こえてきて私は耳を真っ赤にした。
嬌声と水音のせいで私の頭では勝手に想像が織り成されていた。
全身を這う手の感触と甘い波。
その波にいったんさらわれてしまえばもう逃げられやしない。私だってそうだ。
セバスチャンの指と声に狂わされてどうしようと出来なくなる。
セバスチャンの感触を思い出して再び赤面する。

「そんなに赤くなって…興奮してるんですか?」

「ちがっ…」

耳元でセバスチャンが囁くと私は小さく体を跳ねさせた。
すると私を抱き寄せると耳に舌を這わせてくる。生温かい舌が耳を何度もなんども這い回り、耳たぶを吸う音がひどく色っぽい。
こそばゆい快感に私は体をくねらせる。

「どこが違うというんでしょうかねえ…こんなに頬を赤く染めて、耳舐められて体をよじらせてるくせに」
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