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【黒執事】壊れた貴女を看取るまで

第9章 牙


「耳元で喋んないで…ぞわぞわしちゃう…」

壁側をむけば嬌声が、反対をむけばセバスチャンがいる。
セバスチャンは布団の中に手を突っ込んできて私の腰を掴むとさらに引き寄せてきた。
ぎゅっと優しく抱きしめられて、いつも感じるセバスチャンの冷たさがネグリジェ越しに伝わる。

「ん、お兄様…愛してる…」

ぼやけた音声で私の耳に飛び込んできた。
手を伸ばして壁に触れてみるとジルとマーガレットの暖かい部分に触っているような気がした。
私は愛してるなんて言えない。
きっと私はセバスチャンを愛してる。
いま、抱きしめられているときも鼓動が早くなり、幸せを感じると同時に遠くにも感じる。
何度も言い聞かせるが、セバスチャンは悪魔だ。
人間の魂を餌として生きる者。
餌に恋愛感情なんてあるわけがない。そうか、大事なものだって言ってくれたのも私が餌だからだったのだ。
期待した私が馬鹿だった。
あなたの優しさと甘い部分を知るたびに私のなにかが壊れていく。
言い聞かせても言い聞かせてもこの崩壊が止められなくて奥に奥に入り込んでくる。
こんなに近くにいるのに届かない。
肌を肌で感じても届かない。
いつのまにか目尻に涙がたまって頬を流れ落ち、唇をつたった。
しょっぱい涙が心に響く。

「うっ、ひっ、うう…」

涙が止まらない。心が鷲掴みにされたように苦しくなってセバスチャンのことしか考えられなくなる。
結局、私は泣き疲れて寝てしまった。
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