第1章 《アラン B.D》君だけ
「じゃあ、また明日ね!アーサーもね!」
踵を返し立ち去ろうとするリア。
どう気持ちを表したらいいかわからずその姿を見つめる事しかできなかった。
リアが城内へ数歩とその足を進めた後振り返り
またこちらへやってくる。
「どした?」
またその意図が分からず問いかける。
その問いに答えないまま自分に近づいてきたリアが横で立ち止まり背伸びをして自分の肩に手を添えた。
「お誕生日おめでとう。
アランの一年が幸せであふれますように。」
耳元で自分にしか聞こえない声で。
たまらなく甘く優しさに満ち溢れた自分に向けられた言葉。
それだけ言って一度だけ目が合い、月明かりに照らされた満面の笑みを残してまたパタパタと立ち去るリア。
「っなんだよ…。」
触れられた肩と吐息がかかるくらいの近さで紡がれた言葉が反芻しつづける耳が燃えるように熱い。
いつだって俺の気なんか知らないで
そうやって気持ちを搔き乱すだけ乱して
手を伸ばそうとするとすっと離れる。
羽が生えたように軽い足取りでふわふわと。
君が笑えば嬉しくて
君が悲しめば苦しくて。
どんな表情もこの心をざわめかせて。
こんな気持ちにするのは君だけ。
ざわめく心を拾い集めて自室に向かう。
今日は自分の足も軽い気がする。
ベッドに腰かけ貰ったタルトを一口かじる。
それはこの気持ちのように甘酸っぱくて。
ふとタルトが入っていた箱に目を向けるとまだ何か入っていた。
手を差し伸べそれを取り出す。
「…。」
気づいてしまったよ。
この気持ちが何なのか。
君はこの海のように深くて
自分でも手が届かないところまで広がった想いを伝えたらどんな顔するだろう。
もう一口タルトをかじる。
その後ひく甘酸っぱさはきっとタルトのせいだけじゃない。
『生まれてきてくれて、出会ってくれてありがとう。』
控え目な女性らしい筆跡とほんのり香る彼女の香りのする一言だけのカードは
君へと繋がれた鎖の鍵をどこかへ消し去った。
そう、
俺は恋に落ちてしまったんだ。
fin.