第3章 《ルイ》 はじめて
降り注ぐ日差しは温かく、豊かな緑の木々を揺らす風は頬にも気持ちが良い。
時折、風が運ぶ花の香り。
冬の間眠っていた草花も次々目を覚まし、競うように咲き誇る。
ウィスタリアの春は最盛期だ。
公爵邸で机上の書面に目を通し、時にペンを走らせるこの公爵邸の主。
その指先まで整いまるで彫刻のような体躯。
朝日を縒ったような金色の柔らかな髪にきめの細かい色素の薄い艶やかな肌
その髪と同じ色の豊かで長い睫毛とそこから覗く双眸の美しい蒼。
左の瞳の傍にある泣き黒子は妙に色気がある。
その様は美しい絵画のようだ。
その部屋の扉にノック音が響き彼は扉に目を向ける。
「ルイ様、王宮から手紙が届いております。」
部屋に入ってきた老執事が主にその手紙を手渡され
その場で封筒から取り出しハリのある羊皮紙に目を通す。
「…舞踏会?」
それは王宮からの舞踏会の招待状だった。
普段王宮の出入りが多い彼は王宮の情報に長けており
王宮で行われる催しはこうして招待状が来る前から耳にしていることが多かったので
招待状が来て初めてその情報を得るようなことは滅多にない。
王宮の人間から舞踏会があるなんて聞かされていない。
勿論、恋人であるプリンセスからも。
なにより、一番胸をざわつかせたのは文中のこの言葉。
『プリンセスの御相手に相応しい紳士の皆様のお越しをお待ち申し上げております。』
プリンセスの相手…
それはプリンセスの伴侶となり次期国王になるという意味。
これは次期国王を選ぶための舞踏会ということだ。
リアはこれを知っているのだろうか。
居てもたってもいられなくなり気づけば王宮へ向かっていた。
その頃、王宮ではこの舞踏会の主役が浮かない顔で公務である座学をしていた。
「リアちゃん、そんなに嫌そうな顔しないでよ。」
この王宮の官僚であり彼女の座学担当のレオが彼女に声をかける。
「…ごめんなさい。」
しゅんとその大きな瞳を伏せて不安気な子犬のようなその姿はいつもの彼女の明るさや温かさがない。
このプリンセスは感情がそのまま顔や態度に出てしまう。
レオはそんなこと到底自分にはできないと思いながらもそんな彼女が少し羨ましく思える。