第1章 プロローグ
カーテンの閉められていない窓から差し込んだ一瞬の閃光に照らされて、あるはずのないものがあった気がした。
再び闇に包まれた我が家の玄関で、私は息を詰め身を固くする。
気がしただけ。そうだ、気がしただけだ。まさかそんな。目の前の床に人の足が見えただなんて。あくまで気がしただけなのだが、電気をつけるのが怖いと思うほどには鮮明に見えた。思考が目まぐるしく交錯する。泥棒、気のせい、人外のモノ、気のせい、サプライズで現れた大家さん、気のせい、シンプルに人を殺したいやばい人、気のせい、マネキン。「気のせい」という希望を随所に挟んだが、駄目だった。見てしまった今となっては、目の前1メートル以内、何も置いてないはずのところに何かの質量を感じる。
これはもう死ぬのかもしれないと思いながら、ゆっくりと屈んでいた身を起こし、後退りつつも顔を上げれば、暗い中、人型のシルエットが見えた。武器。何か武器はないのか。……何もない。視線を人影に向けたまま、手探りでドアノブを探しているうちに、再び、閃光が走った。
刹那、人間、おそらく男がこちらを見据えて立っているのが見えた。手を伸ばされたら捕まる距離だ。
あぁ、死んだな。
光に遅れて鳴った一際大きな雷鳴を聞きながら、私はへたり込んだ。
……神様、お願いしたのとちょっと違います。