第16章 船のなかで
『ねぇ、船が島に着くまでまだ時間あるしさ、それに退屈だし……ちょっとみんなの様子を見に行ってもいい?。』
何故だかソワソワした様子で希灯誉稀が別の部屋を指差した。
「……駄目よ」
水平線を眺めていた霧切響子は鋭い目付きで希灯に視線を変えた。
「絶望の残党と迂闊に接触するのは危険よ。それに、あなたはただカムクラが気になるだけでしょう?」
諭すように言ったが、希灯は諦めずに食い下がる。
『じゃあ、せめてドアの前だけでいいから……。お願い、イズルくんの安否を確かめたいだけだよ。だってイズルくんと同室の人ってあの人でしょ?。あの左手が女の人の手の人なんでしょ?。』
希灯は心配そうにカムクラの居る部屋の方向を見る。
希灯の言うとおり、自身の左手に女の手を移植した男がカムクラと同じ部屋で待機している。
その男のことを希灯はまだ書類や噂でしか知らないが、他の残党よりも群を抜く気狂いであるという認識は強かった。
「……そうね、確かに絶対安全だという保証はないわ。そこまで気になるのなら確認しに行ってもいいわよ、ただしさっき言った通りドアの前だけに限るわ」
霧切が許すと、希灯は顔を輝かせた。
『ありがとう、響子ちゃん!。』
「決して中に入っては駄目よ。話しかけるのも駄目。カムクラも絶望堕ちしているのは同じよ……あなたを襲う可能性だってある。なるべく気付かれないように戻りなさい」
慎重さや緊張感というイメージに欠いている希灯を心配して、霧切は余計な世話だと自覚しながらも忠告を並べた。
『うん、わかった。じゃあ行ってくるね。』
嬉しそうな顔の希灯は霧切に手を振りながら出ていった。
霧切はそれを無言で見送ると、静かに小さく溜め息を吐いた。