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君と私と(非)日常

第10章 キルミーはママの味



『ゲホッゴホッ………!。』

風邪を引いた。
頭が熱くて、体が寒い。
「駄目じゃない。いくら個室に戻るのが面倒だったからって眠気に負けて中庭のベンチで一晩寝るなんて、夢野さんでもしないわよ」
『うん……ごめんね。』
朝レストランに集まったときに体調不良を指摘され、今こうしてベッドで寝かされている。
昨夜にシャワーを浴びた後、散歩がしたくなって中庭に出てしばらく歩いたからだ。生乾きの髪をそのままにして外で寝てしまったのが一番の原因だろう。
「さっき最原君と百田君が食堂と倉庫から氷と氷嚢を持ってきてくれたわ。すぐに用意するわね」
斬美ちゃんは氷嚢に水と氷を入れて、額に乗せてくれた。
分量がすごく丁度良い。
気持ちの良い冷たさと重みが頭の熱を解していく。
「食欲はある? お粥か何か作るけど、アレルギーは大丈夫かしら」
『アレルギーないよ……プリンが、食べたいな………。』
「プリン? ……そうね、あなたが望むのなら作ってあげるわ」
『うん、ありがとう……。』
それから身の回りを色々と整えてくれた後、斬美ちゃんはプリンを作りに出ていった。
静かになった部屋を少し寂しく思いながら目を閉じた。



部屋を出てすぐ、激しく咳き込む声が聞こえた。
可哀想に……私が出るまで我慢していたのね。
心配をかけまいとなるべく軽い病状を装っていたかったのでしょう。
メイドに気を遣うだなんて……私のせいで苦しませてしまったわ。
咳を我慢するのはなかなか辛いことだもの。
私は食堂の厨房へ急いで向かい、材料を取り出した。
「……希灯さんはどういったプリンが好みなのかしら?」
固さ、甘さ、カラメルの有無。プリンと云えど奥が深いのよね……。
今更戻っても時間が勿体ないわ。
この際、自己判断で彼女の求める最高のプリンを完成させるのよ。

「東条ちゃーん、何してるの?」

厨房の入り口から王馬君が声をかけてきた。
「今、希灯さんの為にプリンを作っているところなの」
「へぇ、オレにも作ってよ。ママの手作りプリンって憧れるなー」
王馬君が冷蔵庫の中を漁りながら言った。
「わかった。あなたの分も作るわ」
「にしし、ありがと母ちゃん」
いたずらっ子のように笑いながら厨房を出ていく。
よく皆は私のことを母親のように扱うけど、なかなか悪い気分にはならないものね。
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