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君と私と(非)日常

第29章 ややこしい2人


己の才能への自負と希灯への期待があってこその言葉だった。構われることに少し嬉しさを感じながらも希灯は苦言で返す。
『ばんそうこう程度で大袈裟な……。』
「その程度が出来てないから言ってるんです」
『はぁ……わかったよ。ケガしたらよろしくね。』
やれやれといった様子で希灯が返事をすると、カムクラも元の体勢に戻った。
また2人で並んで話を続けていく。波の音やキャンプファイヤーの喧騒を遥か遠くに感じながら雑談を交わす。
いくらか落ち着いた心地で接するうち、元の無邪気で穏やかだった少し前の2人に限りなく近くなっていた。
希灯が好き放題お喋りし、時折カムクラが返事をする。
それだけだが、希灯はどこか満たされたような気分になった。
変わらないことへの安心。変われないことへの悲哀。
どちらも同じくらい希灯の中にあるけれど、今はただ2人の時間を楽しんでいたかった。





日付が変わる少し前、キャンプファイヤーを囲む皆の元にカムクラが戻ってきた。
「カムクラくん、希灯さんは?」
「……ここにいますよ」
問いかけた七海にカムクラが背中を見せる。希灯がカムクラの髪の毛に埋もれながらおぶさっていた。
カムクラの肩を枕代わりに静かに寝息を立てている。
「ねぇ、ちゃんと話はできた?」
「な……仲直りできましたかぁ……?」
「どうして希灯さんがあなたに背負われているんですか?! まさか気絶させたんじゃ……!」
一同がわいわいと集まりながら質問攻めにするのを、カムクラは無表情ながら少しうるさそうに返す。
「話はしましたよ。誉稀が寝落ちしたので先にコテージに戻ります」
そして皆に見送られながらカムクラは砂浜を後にした。
夜風で冷めたアスファルトをゆっくりとした調子で歩いていく。
『………ぅ、んん。』
カムクラの肩越しから希灯の呻き声が聞こえた。揺れは最小限だったが、少し目が覚めてしまったようだ。
『…………。』
希灯はぼんやりとした頭で、カムクラにおんぶされていることに気付くもそれに驚けるほどの覚醒はしていなかった。
砂浜で眠ってしまったんだな、とカムクラの背の温もりを感じながら二度寝しようとする。
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