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君と私と(非)日常

第26章 乙女っていいよね


「じゃあ、早速あたしは白夜様の所に行くから。いつまでも髪を握ってないでさっさと放しなさい」
『あぁ、ごめん。』
パッと放すと、冬子ちゃんは大事そうに髪を撫でた。
「……本当に大丈夫なんでしょうね? 変な匂いになってたりしてないわよね?」
髪や腕を再三嗅ぎながら確かめている。どうやら冬子ちゃんはいつもの体臭に慣れすぎて鼻がおかしくなっているみたいだ。
『大丈夫、私と同じ香りになってるよ。』
「アンタと同じってのが少し癪だけどまぁいいわ。今までで一番ベタついてないし不快な匂いも無いんなら、これで白夜様もお側に置いてくださるはず」
にやけながら前髪にヘアピンをセットし、冬子ちゃんが脱衣場を出ようとする。
「その、少しだけ感謝してるわ。あ……ありがとう」
一瞬だけ立ち止まってそう言うと、すぐに出ていってしまった。
最後の方は小声な上に早口でよく聞き取れなかった。
けど滅多に腐川さんの口からお礼を聞くことも今まではなかったし、頑張って洗った甲斐があったなと思えて嬉しくなる。
『どういたしまして……冬子ちゃん。』
パタパタ走り遠ざかっていく足音に手を振り見送る。
私の返事はきっと聞こえてないんだろうな。
『……私も着替えなきゃ。』
タオルで髪や体を拭きながら私物の入ったロッカーを開ける。
ジャージを寝巻きにするのにもすっかり慣れてしまった。最初は着心地が悪くて全然寝付けなかったのに。
『あ……冬子ちゃんったらヘアピン忘れてる。』
冬子ちゃんの使った後の開けっ放しになったロッカーに、1つだけヘアピンが残っているのを見つけた。
いつもは本数と位置を違わずにちゃんと付けてるはずだ。
ほぼ習慣のようにやっていることすら忘れるほど、十神くんに風呂上がりの成果を認めてもらいに行きたかったのかもしれない。
大好きな人に嫌われないようにと精一杯努力した姿を見てもらおうと夢中になっていた、なんて似合わないくらいピュアだ。
いいなぁ、恋してるのって何だか羨ましい。
四六時中好きな人のことで心がいっぱいになるってどんな気分なんだろう。
私もいつか良い人が見つかるといいな……こんな幽閉生活じゃ夢のまた夢だけど、何かの拍子に見つかるかもしれない。
せめてもう好きな人が見つかった冬子ちゃんには幸せになってもらいたいかな。
……冬子ちゃんのアプローチを嫌がっている十神くんは少し可哀想だけどね。




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