第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
俺の家に帰ってすぐ、紗菜ちゃんは既に荷物の詰め終わったスーツケースを持って玄関へやってきた。
丁寧にスリッパを揃えてから靴を履いて、俺を見上げる。
「2週間お世話になりました」
「いや、全然。俺こそ色々してもらっちゃって、ありがとう。忘れ物ない?」
「はい。…たぶん」
「まあ、何かあっても明日渡せばいいか」
「そうですね」
駅まで送るって言ったんだけど、歩いてすぐだから大丈夫だと断られて。
だから、ここでお別れだ。
でも、何かこの場所で見送るのは…
「紗菜ちゃん。荷物あるしさ、やっぱり俺も行くよ」
靴を履きながら紗菜ちゃんの顔を覗くと、小さく首を振って笑う。
「優さんとの2週間を思い出しながら帰りたいから。今度はどこにデート連れてってもらおうかな?とか」
「どこにでも連れてってあげるよ」
「ほんと?日帰りでどこか遠くに行きたいな」
「うん、行こう」
「嬉しい…。楽しみにしてますね」
「……」
楽しそうに声を弾ませてるけど、笑顔の奥の瞳に影が落ちていることが、俺にはわかる。
「じゃあ、そろそろ行きます。ありがとうございました」
最後にまた俺を見上げて、玄関のドアノブに手が掛けられた。
もう俺の方が我慢出来なくなって…
紗菜ちゃんの体を、後ろから抱き締めた。
「…!」
小さく息を飲む音が聞こえる。
ドアノブからゆっくり降りていく、紗菜ちゃんの手。
「帰らないで。紗菜ちゃんいなくなったら、寂しいよ」
耳元で囁いてみる。
俺の気持ち、届くかな。
紗菜ちゃんはキュッと俺の腕を掴む。
「優さん…ズルい…。私、言うの我慢したのに…」
「俺、我慢とか嫌いだし」
「…子どもみたいですよ?」
「だね。ガッカリした?」
「しない……嬉しい……」