第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
「とにかく、そういうことだから!早く帰れ!」
黒尾の体を足で押し出そうとした時、いやに近くで紗菜ちゃんの声がした。
「優さん?シャンプー…」
振り返ると、洗面所の入口から顔を出す紗菜ちゃんがいた。
体にはバスタオルを巻いて。
「……くっ…黒尾さん!?」
「は…?え!?紗菜ちゃん!?」
互いの姿を確認した二人は、同時に驚愕の声を上げる。
「……っ、やだッ…」
それから直ぐ様、紗菜ちゃんは自分の格好に気づき洗面所の中へ姿を隠してしまった。
「……まさか…彼女って、紗菜ちゃん……?」
「……そうだよ」
「へ~え?ふ~ん?そうなんだ~!」
「…………」
「店で会ってても全然気づかなかったなぁ。いつから付き合ってンの?」
「いつでもいいだろ!」
「いーじゃん、そんだけ教えて!」
「~~~っ!昨日だよ!」
「……へ?昨日…?」
「てっちゃん、もう帰ろ!お邪魔だから!ごめんね、優くん!紗菜ちゃんによろしくね!」
梨央さんは黒尾が持っていたコンビニの袋を俺に手渡す。
赤い顔をした梨央さんに手を引かれながら、黒尾は帰っていった。
何だったんだ、一体…。
起き抜けに黒尾の相手とかマジで疲れるわ…。
鍵を閉めて、室内へ上がる。
そうだ、紗菜ちゃん。
洗面所のドアをノックすると、小さく引き戸が開く。
そこから覗く紗菜ちゃんの顔は赤い。
「ごめんね、黒尾の奴。何か近くに来たから寄ったらしいんだけど」
「いいえ、私こそ…。誰か来てるなんて気づかなくて…」
「あ、シャンプーだよね」
「はい…」
「棚の一番上の段にあるんだけど」
「一番上……あ、ありました」
俺の言った場所にシャンプーを見つけたらしい。
「じゃあ閉めるね」
少しだけ開いた隙間を閉じようとすると、中からまた声がする。
「優さん…届かない…。取ってもらえますか?」
「え…?」
そうだよな。
紗菜ちゃんの身長じゃ、届かねーか…。