第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
紗菜ちゃんの気遣いは正直ありがたい。
ここは素直に甘えることにする。
「じゃあ、頼める?」
「はい。朝は和食?洋食?」
「洋食かな。いつもパンに目玉焼きとか、簡単に食うだけ」
「わかりました」
こうして翌朝からは、毎日紗菜ちゃんの作ってくれた朝飯を食べて出勤するようになった。
卵料理に加えてフレンチトーストだったり、パンケーキだったり。
バリエーションもそうだけど、サラダやスープを多めに作って晩飯の分にしてくれたり。
帰宅してからのことまで考えてくれて、その心遣いも嬉しかった。
家でも職場でも、四六時中紗菜ちゃんと一緒。
そんな日々が続いた。
それなりに気を遣いながらも、上手くやってきた共同生活。
紗菜ちゃんがこんなに近くにいることが嬉しくて…
だんだん、その日が来るのが寂しくも感じてしまう。
こんな心境でいれば2週間なんてあっという間で、とうとう明日は紗菜ちゃんが自分の家へ戻る日。
定休日だから二人でどこかへ出掛けて、夕方には2週間ぶりの我が家へ帰るつもりらしい。
まあ、翌日の仕事もあるしな。
店からの帰り道を歩いていると、紗菜ちゃんがふと足を止める。
「優さん、何かDVD借りて帰りませんか?」
「ああ、いいね。夜更ししちゃうか」
レンタル店に入って、何を借りようかと棚を順番に目で追う。
すると紗菜ちゃんは、一本の映画を指差した。
「これ、どうですか?」
「え…これ?」
よりによって、ゾンビ映画…。
有名なやつだからタイトルは知ってる。
「紗菜ちゃん、ホラー苦手なんじゃないの?」
「そうなんですけど。これはただのゾンビ映画じゃない、人間ドラマだ!ってクチコミ見て。一人じゃ怖いけど、優さんとなら。ね?」
そんな……
また可愛い言い方すんなぁ…。
もしかして計算?
俺、上手いこと転がされてる?
まあ…ゾンビのひとつやふたつ、見てもいいか。
「いいよ」
「やった!帰りにお酒も買って帰りましょうね!」
ウキウキしてる姿を微笑ましく眺める。
毎日帰って飯食って風呂入って寝るだけだったからな。
今夜と明日、ゆっくり紗菜ちゃんと過ごせるのも、実は楽しみだ。
俺たちはゾンビ映画片手に酒とつまみを買い込んで、家に帰った。