第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
俺の新しい恋は、ごく自然に始まった。
と思ったのも束の間、紗菜ちゃんの身に災難が降りかかる。
「ボヤ!?」
ある日出勤すると、紗菜ちゃんは酷く疲れた顔をしていて…
どうやら、昨夜アパートの隣人がボヤを起こしたらしい。
幸い壁とベランダが煤だらけになっただけで紗菜ちゃんに怪我はないみたいだ。
しかし壁の補強や清掃を含めると2週間程部屋を出なければならなくて、今日はネカフェから出勤してきたそうだ。
「なんだかちゃんと眠れなくて…。ビジネスホテルはお金かかるし、近くに友達もいないから困っちゃって…」
大きくため息をつく紗菜ちゃん。
その姿を見て、すぐにあることを思い付く。
助けてあげたい……ただそれだけの思いで、俺はそれを提案した。
「じゃあさ、うち来る?」
「……え?」
「俺んち店まで近いし、通勤だって一緒にすればいいし。たまに帰りが遅くなる時、実はちょっと心配だったんだよね。紗菜ちゃん無事に帰ったかなーって。そんな心配もなくなるしさ」
驚いた顔をしたまま固まってる紗菜ちゃん。
こんな時くらい、頼って欲しい。
俺にできることなら、何でもしたい。
でも俺たちはれっきとした男と女なわけで、そこはちゃんと念を押す。
「大丈夫。何も変なことはしないよ」
少し冗談っぽく、紗菜ちゃんが警戒しないように。
紗菜ちゃんはまだ躊躇ってるみたいで「でも…」と小さく呟き俺を見上げた。
ちょっと距離が縮まったと思ってたけど。
非常事態とは言え、やっぱり俺んちに泊まるなんて嫌かな…。
余計なお世話だっただろうかと頭を掠めたところで、紗菜ちゃんが上目遣いでおずおずと答えた。
「あの…ご迷惑じゃ…ありませんか…?」
ああ……
紗菜ちゃんが懸念していたのはそっちか。
それなら即答できる。
「そんなわけないだろ?おいでよ」
「はい…じゃあ……よろしくお願いします…」
「うん」
こうして、全く予期していなかった紗菜ちゃんとの同居生活が始まった。