第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
「なぁ、優」
「んー?」
「お前さぁ、紗菜ちゃんと付き合ってんの?」
店の事務所で兄貴と話していると、突如聞かれる。
ついさっきまで売り上げの話をしていたのに、本当に唐突に。
「…付き合ってないけど。何で?」
不意を突かれて一瞬言葉に詰まったものの、何とか平静を装った。
俺の片想いだし、変に勘ぐられるのは困る。
兄貴なら無理矢理お膳立てするなんてこともあり得るし、紗菜ちゃんにも失礼なこと言いかねない。
「だってお前らの話聞いてるとさ、最近しょっちゅう会ってない?」
確かに紗菜ちゃんとは、この1ヶ月近く毎日会っている。
仕事の日はもちろん、定休日は3週連続で。
「んー、会ってるけど。向こうはさ、俺のこと兄ちゃんみたいな感覚じゃねぇのかな。歳もちょっと離れてるし」
うわ…。取り繕ったつもりだったけど、これ自分で言ってて痛いわ…。
その可能性もアリだよな…。
「ふーん?別に職場恋愛禁止じゃねーよ?」
「だから、違うって」
兄貴は本当に思い付きで聞いただけらしく、それ以上話を掘り下げることはしなかった。
今更ながら、また同じ職場の女の子に好意をもつとか…。
フラれた時顔会わせなきゃなんねぇ分、辛いのにな。
向こうにも気遣わせちゃうし。
でも、梨央さんの時は何故か強気で行けたというか…。
俺も今より3年若かったから、勢いがあったのか?
それか、当たって砕けろなんて考えてたんだろうか?
不思議と思い出せない。
同じ職場ってことにマイナス要素がないわけじゃない。
だけど、引き返す気も更々ない。
だって今度は―――紗菜ちゃんは、まだ誰のものでもないんだから。