第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
紗菜ちゃんが、出来上がったモンブランを皿に乗せてくる。
このスイーツ特有の渦を描いたモンブランは、濃淡のブラウンが秋らしい。
「お願いします」
フォークを添えて、紗菜ちゃんは俺に皿を差し出す。
渦の端っこを掬って食べてみると、栗の甘味とラム酒の風味が薫って美味い。
「うん、美味しい。ラム酒結構効いてるね」
「あ、そうなんです。意見聞きたいのはそこで」
「俺は好きな味だけどね。でも、洋酒効かせるのは好みが分かれるからなぁ…」
もうひと口食べようと、フォークを差し込む。
「私にももらえます?」
「うん」
掬ったそれを、そのまま紗菜ちゃんの口元へ。
「…え?」
俺が差し出したフォークを見て、キョトンとした顔をする紗菜ちゃん。
彼女の手は、調理台の上に置かれたもう一本のフォークを掴もうとしている所だった。
………!
そうだよな…!
何「あーんして?」やろうとしてんだ、どさくさに紛れて!
キモチワルイって今度こそ思われるやつだ、これ…!
大丈夫、すぐ引っ込めるから!
そう、思ったんだけど……
紗菜ちゃんの口は、俺が差し出したモンブランにパクリと食いついた。
「……」
「……」
それを飲み込むまで、お互い無言。
彼女の頬は心なしか赤い。
「…やっぱり、ラム酒効き過ぎですかね…?」
「…うん、そう…かも…」
「少し量を控えたのもこっちにあるんです」
うつむき加減で俺から皿を受け取ると、別のモンブランを持ってくる。
姿かたちは全く同じそれに、また紗菜ちゃんがフォークを刺す。
一瞬躊躇うように手を止めたが、チラッと俺を見上げたあと、今度は彼女が俺の口元へそれを差し出した。
「どうぞ…」
「……うん」
パクリと食いついて、甘いモンブランを味わう。
思わぬ食べさせ合いっこに、内心めちゃくちゃ照れる。
でもこれが商品になるんだからと、無理矢理感覚を研ぎ澄ませた。