第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
紗菜ちゃんが作ってくれたのは、ココアが混じったマーブル模様のクッキー。
食後のコーヒーと一緒に食べてみると、甘すぎなくて美味しい。
俺一人で食うこと考えてくれたのか、量も丁度いい。
来週…また会うんだよな…。
今日だって、二人で会うことに気を遣わなかったわけじゃない。
でもそれは職場の先輩として、年上として。
紗菜ちゃんが楽しんでくれたらいいなって、それだけだったんだけど…。
次に会う時は、妙に意識しちまいそうだ。
……男として。
「優さん、今日帰り何時頃になりそうですか?」
「あー、10時くらいかな。何で?」
あれから数日。
閉店後明日の仕込みをしていると、紗菜ちゃんが俺に尋ねる。
「秋のスイーツの試作品作るんで、よかったら味見してもらいたくて」
「ああ、いいよ。何作るの?」
「和栗のモンブランです」
「そっか、モンブランねー」
今は涼しげなゼリーがショーケースに並んでるけれど、じきに秋のスイーツがその場所を占領するようになる。
年々一年が早く感じるのは、それなりに歳を重ねてる証拠か?
この調子じゃ、繁忙期のクリスマスなんてすぐだろうな。
厨房の中を、紗菜ちゃんが作るモンブランの甘い香りが満たしていく。
黙々と作業する紗菜ちゃんを見ながら、ふと思う。
3年前は、当たり前のようにこの場所には梨央さんがいた。
紗菜ちゃんはホールと厨房を行き来してて。
ああ…そういえば、閉店後時々梨央さんと二人並んでケーキ焼いたりしてたっけ。
あの頃の俺は、梨央さんばかりを目で追っていた。
紗菜ちゃんがどんな女の子なのか、知ってるようで知らない。
もう少し、この子を知りたい―――。
そんな思いが芽生え始めていた。