第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
「じゃあ、気を付けてね」
「はい。今日は付き合ってくれてありがとうございました」
「いや、俺も楽しかったよ」
駅の構内。
それぞれの家へと向かう電車に乗るべく、別れようとした時。
「あ、そうだ!」
突然紗菜ちゃんが声を上げた。
「忘れるところでした。これ…」
「何?」
バッグから取り出したのは、小さな紙袋。
俺の前に差し出しながら、いつものように明るく笑う。
「今日のお礼。クッキーです。よかったら」
「え…もしかして、作ってくれた?」
「はい」
「そんな、わざわざよかったのに。俺も楽しかったし」
何か気ぃ遣わせちまったのかな?
俺から誘ったのに。
お菓子作ることには慣れてるだろうけど、やっぱり手間はかかるワケで。
何だか申し訳なくなる。
でも紗菜ちゃんは、俺のそんな気持ちを払拭するように少し照れながら言った。
「私は、もっと楽しかったんで。優さんに誘ってもらえて、嬉しかったです」
「……」
な……
何だ、今の……?
「あ、電車来ちゃう。私、行きますね」
「え?ああ…これ、ありがとう」
「いえ。また明日」
ホームへ続く階段を降りていく紗菜ちゃんを目で追いながら、湧き上がってくる感情。
何か…
すげぇ…可愛かったんだけど……。
ていうか、俺に誘ってもらえて嬉しかったって…
どういう意味?
そういう意味?
いやいや、紗菜ちゃんは映画が観たかったってだけだよな…。
ガキじゃねぇんだから、深読みすんな。
でも、手作りのクッキーとか…その心配りが女の子らしいというか…。
明るくて気遣いもできて、その上可愛くて。
………。
"可愛い" って何だよ!?
突然訪れた胸を刺激する感情に、自分自身戸惑う。
「……帰ろ」
ボンヤリした頭のまま、俺も家へ帰るため足を進めた。