第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
「塔から飛び降りるシーン、すごかったですね!鳥肌立っちゃいました!」
「あれな!スタントなしってマジかな?一歩間違えたら死ぬだろ!」
「ほんと!人間業じゃないですよね!あと、女秘書が黒幕ってわかりました!?私、絶対主人公のパートナーが最後裏切るって思ってました!」
「俺も騙された。秘書と二人きりのシーンに伏線あったのかな?」
映画館のそばのカフェに入り、俺たちは観てきた映画を語る。
テーブルの上にはアイスコーヒーとオレンジジュースが並んでいるが、最初のひと口を飲んだだけで手付かずのまま。
グラスの外側には、水滴ばかりが増えていく。
「あー、もう一回見たいなぁ…」
前のめりになって話していた紗菜ちゃんは、俺のひと言で動きを止めた。
「優さんもそう思いました?」
「え?紗菜ちゃんも思った?」
「はい。次はまた違う見方ができて楽しめそうですよね!」
「じゃあさ、また来週見に行くってのは、どう?」
「いいんですか?嬉しい!同じ映画二回見るのって、結構賛否別れますよね」
「ああ、別れるね。俺は面白ければ何度でも見たいけどなぁ」
「私もです。優さんも映画好きなんですね」
紗菜ちゃんも映画や読書が趣味みたいで、それからはお互いの好みやお薦めの作品について話し込む。
考えてみたら、昔一緒に仕事してた時はこんなにプライベートなことを話したりはしなかった。
紗菜ちゃんのことは、バイトの若い子、っていう感覚でいたし。
趣味が合う、合わないまでは知らなかった。
それから俺たちは時間を忘れて喋り続け、気付いた時には既に陽が傾き始めていた。