第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
「紗菜ちゃん。そのくらいでいいよ。また休み明けやればさ?」
あんまり遅くなると、帰り道が心配だし。
彼女の後ろ姿に声をかける。
「…はい、でも…」
「ん?」
「南さんにお店に誘っていただいた以上、出来ることは何でもしたくて…。もし、ガッカリされたらと思うと…」
ああ…期待に応えなきゃって、構えてるのか。
真面目な子だったもんな。
昔大きなミスした時も、しばらく元気なかったっけ。
「兄貴も俺も、ガッカリなんてしないよ。また紗菜ちゃんと働けることになって、それだけで嬉しいから」
「ありがとうございます…」
厨房の電気のスイッチに手を掛けながら、紗菜ちゃんを外へ促す。
「ほら、もう帰ろ。せっかく明日は休みなんだし。何か予定あるんじゃないの?」
「いいえ、何も。友達とは休み合わないから、いつも一人で買い物するくらいで。ほんとは映画とか観たいんですけどね」
すぐそばの更衣室に向かいながら、少しお喋り。
確かに、友達とは休み合わねぇんだよな。
でも…
「一人でも映画くらい観れるじゃん?」
「いや!一人映画は勇気がなくて…!」
勇気?
そんなもんいるのか?
女の子だから?
平日の映画館、空いてるから集中して観られるし、いいことしかねぇけどな。
「だったら、一緒に行く?」
何も考えず、口から言葉が出てきた。
「え…」
驚いた顔をした紗菜ちゃんを見て、すぐに察する。
うわ…何か微妙な反応…?
もしかして、おっさんに映画誘われたキモチワルイ的なこと思われてる!?
「いや、ごめん!思い付きで言っただけ。迷惑なら、」
「行きたいです!」
「え…」
今度は俺がびっくりする番。
断りきれなくて渋々…って感じでもない。
語尾を強め、キラキラした笑顔で俺を見上げてくる。
少なくとも、キモチワルイとは思われてないみたいだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
こうして俺たちは、初めて二人で休みを過ごすことになった。