第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
目の前には、少し照れたように俺を見上げる女の子が立っていた。
「……え?え!?マジで!?紗菜ちゃん!?」
「お世話になります。よろしくお願いします」
そう言って、ペコリと頭を下げる。
「びっくりした?した!?したよな!?俺も再会した時びっくりしてさぁ!」
「懐かしいなぁ!どれくらいぶり?」
「3年ぶりです」
「そっか、あの頃製菓学校通ってたもんな」
この店でバイトしてた紗菜ちゃんは、当時学生だった。
パティシエ目指してたから、梨央さんに色々教えてもらってたっけ。
あれから卒業して、よそで経験積んで…
あぁ…時が経つのは早いな。
改めて紗菜ちゃんの顔を眺めてみる。
3年ぶりに会う紗菜ちゃんは、昔の印象とは少し違って…
「何か、綺麗になったね」
大人っぽくなったっていうか。
そりゃそうか。3年たってるんだもんな。
「優さん、相変わらずですね…」
「え?何?」
「そういうことサラッと言われると、どう反応していいか…」
少し赤くなりながら俯く紗菜ちゃん。
ああ…そういえばこんな子だった。
明るいけど恥ずかしがり屋なとこもあって、よく兄貴や黒尾にからかわれてたっけ。
「えーと…ごめん?」
別にふざけて言ったわけでもないんだけど、とりあえず謝っとく。
「優は天然タラシなだけだから、適当にあしらっときゃいいよ。仲良くやろうね!」
「はい」
天然タラシ…?
何?俗語?若者言葉?
「優さん、ご指導よろしくお願いします!」
勢いよく俺に頭を下げ、それからまた勢いよく顔を上げる。
「あ、うん…。よろしくね」
少し大人びたと思った紗菜ちゃんだけど、太陽みたいな明るい笑顔はあの頃と変わらなかった。
それから1ヶ月。
紗菜ちゃんは朝早くから夜遅くまで働きづめだった。
伊藤さんが辞めるということもあって、レシピを引き継いだり、新作のスイーツの試作をしたり。
もう少し力抜いてもいいんじゃないかと思うくらい。
今だって、一人で残って厨房の片付けをしている。