第1章 ⒈
「おい、お豊」
代官城を攻め落し、兵士たちを皆殺しにした彼らは拠点である廃城へ戻り、女たちに"手土産"を持たせて各村へと帰した。
お豊と呼ばれた男ー拷問を受けていた彼女を連れ出した彼だーはいい具合に焼けた鳥の丸焼きを頬張りながら自分を呼んだ男の方を向いた。
「なんぞ」
「あの娘、もしかしたら俺たちと同じやも知れぬ」
「同じとは?」
お豊と呼んだ男ー眼帯をかけた中年の男であるーは部屋の隅を指差した。
見るとそこには、見たことのない衣服や道具らしきものが置かれている。
「あれらは全て代官の部屋にあったものだ。
エルフどもやオッパイーヌにも見せたが、衣服はともかく、カラクリについては全く知らん。
あの娘のものと見て間違いなかろう」
つまり、と眼帯の男は手にしていた扇を開いた。
「漂流者かも知れんということだ」
それも、おそらく俺たちよりも遥か先の時代のな。
眼帯の男は楽しそうに笑った。
「しかし、あの城の兵士どもは酷いことをしますなぁ」
急に聞こえた声に2人が振り向くと、いつの間にか弓を携えた美少年が佇んでいた。
その目は荷物のすぐそばで死んだように眠っている女に向けられている。
代官城から廃城へ戻るまでの道のりで彼女を手当てしたが、それは酷いものだった。
片足の骨は折られ、両手両足の爪は剥がされ、柔肌は様々な傷で覆われている。
「挙句に髪と顔を切り刻むなど…
とても人間とは思えぬ所業」
少年は彼女へと近づき、頰を撫でた。
その顔は悲痛に歪んでいる。
「体はともかく、顔の傷は痕が残るでしょうね」
それを聞いて2人は悲しげに眉を寄せた。
「詳しいことは起きてからだが…
何にせよ、今は待つしかないのぅ」
彼女が起きるのは、それから数日後である。