第12章 〜12〜
(……やっぱり……あの優鞠だ……)
家康は、そう確信した。
自分が幼かった頃、人質として織田家にいた時期がある。
その時、誰も知っている人がいなくて毎日が不安だった。
そんな俺を見かねた織田家が、遊び相手として連れてきたのは優鞠だった。
その頃はまだ戦が始まる前で、優鞠も姫として俺に紹介された。
結局、すぐに戦が始まって優鞠と会えたのは数回だったけど、彼女のおかげで今の自分がある。
あのとき優鞠と会えたから、オレは人質でも生きるために強くなろうと思えたし、優鞠のためにそうありたかった。
幼いながらに優鞠の事を好いていた。
でも、戦が終わったあと優鞠が織田家に顔を出すことは無かった。
何があったのか分からなかったが、二度と会えないんだろうなとは頭の片隅で思っていた。
でも思い出だけでも優鞠がいてくれたおかげで強くなれた。
優鞠にはずっと感謝してる。
でも、もう二度と会えないはずの女が、まさか織田家の女中になっていたなんて。
目の前にまた優鞠が現れるなんて夢にも思ってなかった。
柄にもなく内心喜んだ。
でも、彼女はきっと、俺のことを覚えていない。
昨日顔を合わせた時も、俺の方など見向きもせず、に仕える女中として真っ直ぐ仕事をしていた。
悲しくもありながら、優鞠が生きていたことに驚いて、そしてたまらなく嬉しかった。
優鞠と話がしたくて、今朝女中の部屋に優鞠を訪ねてみると、を起こしに行ってるとお珠さんに聞いた。
の部屋まで来ては見たものの、話し声がしたので、声を掛けるのを様子見していたら、彼女の過去の話が聞こえてきて思わず耳を傾けてしまった。
悪いと思いながら立ち聞きした話からすると、彼女の人生はなかなかに壮絶なもので、自分との思い出なんてとっくに消えて無くなってしまったのだろう。
忘れているなら、思い出させる。
そんな決意を、目の前の政宗さんに悟られないよう、心で誓った。