第22章 ２人だけで

‐月島side‐

黒尾さんの手の中にはスマホ。
でも、黒尾さん本人のものじゃない。
見覚えのあるそれは赤葦さんのものだと、すぐに気付いた。

みつを置いていったのなら、あの人がこの場の会話を聞こうとするのは‘らしい’で済まされるケド。
みつを連れている状態で、この場の会話を聞こうとするのなら、赤葦さん自身の為じゃない。

それなら、きっと、会話を聞いていたのはりんさんだね。
黒尾さんが、スマホに向けて話した言葉も、どう考えたって彼女宛だし。

こんな事されたら、僕が怒るって分からないかな。
赤葦さんも黒尾さんも、それなりに付き合いは長いのに。

いや、彼等は分かっててやってるんだ。
僕の本音を聞かせたいなら、今のタイミングでスマホを見せてくる筈がない。

彼女を先に帰らせた。
そんな事をした後じゃ、彼女と話し合いたくても、すぐに僕も帰るなんて出来ない。
だから、怒って帰るような状況を作った。

仕方がないから、今回はそれにノってあげるよ。
正解を答えてくれたって、黒尾さんしか聞けないのは腹が立つしね。

「感謝はしませんよ。」
「感謝されるような事、してねーし？何？ツッキーにとっては感謝したい事でもあった？」

素直じゃない僕の言う事。
お礼のつもりだって、分かってる筈なのに、からかった返しをされて。
今度は本当にムカついたから、さっさと店から出た。