第22章 2人だけで
‐りんside‐
見ていた店の扉が開かれて、出てきたのは予想通りの人で。
咄嗟にスマホを赤葦に返したけど、そんなの今更だ。
人通りも少ない場所で、背の高い赤葦は目印になってしまったみたいで、蛍くんにはすぐに見付かった。
「帰ったんじゃ無かったんですか?」
わざとらしい作り笑顔が向けられる。
スマホを使った盗聴に気付いたなら、近場に居るのも分かっていた筈。
それなら、これはただの嫌味。
「そのつもりだったんだけど、スマホを店に忘れたからね。取りに戻るところだったんだ。
月島も帰るつもりなら、りんさんは任せていいよね?」
盗聴を仕掛けた張本人…赤葦は、嫌味に屈する事もなく。
蛍くんの返事を聞く事もせず、みつを連れて店に戻っていった。
強制的に2人きりにされても、何を言えば良いか分からない。
取り合えず的に帰ろうと先を歩いた。
「…ねぇ、正解は?」
「…え?」
突然の声掛け。
振り返ると、蛍くんはさっきと同じ場所に立ったまま。
私達の間には物理的な数メートルくらいの隙間。
「僕の実家、挨拶に行くのが嫌なんデショ?」
続けられたのは、さっきも聞いた間違った回答。
今ある隙間は、そのまま心の距離を表している気がした。
足を踏み出す。
進んで、物理的な距離を縮める。
勝手に悩んでいた事を話して、バカにされたっていい。
いくら年上ぶって、大人ぶっていたって、女として悩む事がない訳じゃない。
「違うよ。私が悩んでたのは、行きたくないからじゃない。」
心の距離も縮める為に、ちゃんと話す事にした。