第4章 カフェバイト【香】
私がバイトしているカフェに、香くんと呼ばれている男子が入ってきた。凜々しい眉毛、琥珀色の瞳、艶やかなダークブラウンの髪。スラリとした体躯も人気の秘訣だ。
そんなわけで、女性スタッフやお客様からは熱のこもった視線を向けられることが多かった。しかし一つだけ難点がある。彼の言葉遣いだ。
「メニュー決まりましたっすか?」
「えっと、キャラメルマキアートを二つお願いします」
「O.K. 了解した的な」
チャラめの言葉遣いは接客において誉められたことではない。香くんはバイトを初めてから数週間だというのに、言葉遣いは直らない。
けれど憎めないキャラなので、なんやかんや許されているのが現状だ。正直うらやましさすら覚える。
「……」
ある日、そんな香くんが一人のお客様を見かけたときである。突然固まったと思ったら、顔面蒼白になっていた。我に帰った彼は黒いエプロンを翻してそそくさとスタッフルームへ入っていった。
「マジやべーこれは見つかったっしょ」
「どうしたの?」
「あ、先輩。あそこにいる客、知り合いなんすけど、できれば会いたくない的な」
どうやら見つかったらマズイ相手らしい。どんな関係かと気になったことを考えていたら、例の人がスタッフルームの扉の前へ来たようで、声が聞こえてきた。
「香港! お前、我に内緒ここでバイトしていたあるな!」
「何でわざわざ先生に報告しなきゃいけないの的な」
「昔は素直な奴だったのに、あへんのせいでこうなったあるか?!」
「つか他の客に迷惑だからbe quite的な」
ドア越しに口論する二人。仕事があるしそろそろ終わってほしい。私は猫なで声で声をかける。
「あの、香くんの保護者の方でしょうか? もしよろしければ、会議室をお貸ししましょうか? 店長も呼んできます」
「あいやー、親切にどうもある。我は王耀ある。そうしてほしいある」
香くんはというと、急に私の方を見て「名案を閃いたっす!」と言いたげな表情になった。金色のお目めが眩しいほどに輝いています。
「先生、俺……がここで働く限り、やめたくないっす」
「は?」
絞り出すような声で言ってのける香くんに、私は思わず目が点になってしまった。私を巻き込まないでくれえええええ!