第1章 汗と涙で勝ち得たボーナスの行方
「それは知ってます。確かに納得いきません。みんな怒っていると思います」
「怒ってどうするのだ?」
古美門は目を薄めている。
「声を上げて、必死に変えようとしているんじゃありませんか?」
いつかこの世界は変わる。いや、変えたいと思って弁護士になったはず。そんな志も目の前の金の亡者に押しつぶされそうになる。
「キミはお祭り気分のデモや街角インタビューでの戯言、ネットでの犯罪まがいの誹謗中傷、評論家気取りの三流芸能人のつぶやきのことを言っているのか?」
「ずっと声を上げ続けて勝ち取った事例もたくさんあります」
私は古美門との距離を詰めた。
「勝ち取ってなどいない。人生を全て賭けて戦い続けた結果、それに相応しい対価を受け取ったものなどほとんど存在しないのだ!」
「そういう人たちは金が目的ではないんですよ」
「ではなんだ?絆の確認か?存在の探求か?それとも正義の証明か?」
「未来のためです。二度と同じような思いをする人が出てこないように戦ってるんです。大切なものを奪われた悲しみや怒りに耐えながら必死に戦っているんですよ!」
古「それは心中をお察しする。しかし、この国のシステムは変わらない。ちなみにキミは政治家は好きか?」
黛「嫌いです」
古「なぜ?」
黛「国民の生活や安全は二の次で、利権や保身にしか目がいってないからです」