第1章 汗と涙で勝ち得たボーナスの行方
「まさかボーナスが出るとは思ってませんでした。ありがとうございます」
テーブルに足をかけ、カタログ雑誌のページをめくりめくる古美門に私は頭を下げた。古美門は視線を下げたまま口を開く。
「真知子くん。何ら結果を出していない輩に支給するのは異例中の異例だよ。おたまじゃくしのくせに鳥になろうと夢見てるキミが哀れに思えてきてね。雀の涙ほどだが受け取ってくれたまえ。回る寿司屋にでも行って心置きなく金皿を積み重ねてくるといい」
「貰えるだけでも感謝しています。この世には貰えない人だってたくさんいるんですから」
「本気でそう思っているのか?」
古美門は一つ溜息をついた。
「はい」
実際、貰っていない同期は数多くいる。就業規則も何もないこの事務所にボーナス制度があることには驚きだった。
「自分より下の人間だけを見下ろして満足する実に愚かな人間だな。そんなことだから家畜のように飼い殺しにされるのだよ。大事故を引き起こしても何の責任も取らず、大赤字だからといって多額の税金を投入しながら、キミの年収の何倍もボーナスを支給するおめでたい企業がこの国は存在するのだ。今すぐテキサスに行って気温40度の中でダルビッシュの直球を顔面で受けてくるといい。少しはマシになるだろう」