第9章 妖精使いと鶴。【鶴丸国永】
冬の夜は冷たく静寂が広がる。
その静寂に隠れるように廊下の片隅から、小さな話し声が聞こえた。
俺は誰がそこにいるのか気になって、その声の元へと歩き出す。
すると、そこにはまるで火花のようにチカチカする光に囲われた主がいた。
「そう、楓がまたそんな事を」
「気にしなくても大丈夫よ、あの子は少し気が強いだけ」
「ほら泣かないで、可愛いお顔が台無しじゃない」
主は俺に気づいていないのか、一人その火花に話しかける。
時折、その火花は不規則にチカチカと瞬く。
「そうもう寝るのね」
火花が一つ主の頬を撫でると主は軒下から立ち上がり、枡に張る水をひと撫でする。
すると次々と火花は主の頬を撫で、蛍の光の様に闇の中へと紛れていった。
そこで、俺はまた一歩と主へと近づく。
「綺麗なもんだな、妖精というのは」
「あら、いつから…?」
一通り灯りが消え、闇に残る主の隣に腰を降ろすと、主は驚いた顔を見せる。
升の中に浮かぶ月が一つ、波を打つ。
「あの子達の輝きは純粋な心の象徴。楽しい事以外何も知らない美しい心のみ」
「その割に一つだけ燻ぶるような奴がいたじゃないか」
「そう、あの子は少し気が強いだけ、ただそれだけなのよ」
悪い子じゃないわ、と零し主は持っていた升を置いた。
あたりはまた冬の夜の静寂が包む。
「俺にはわからないが」
「うん」
「主は凄いんだなーって思う」
俺から出た言葉が予想外だったのか、えっ、と零す主。
その顔が少し少女のようで、可愛らしい姿に俺は誤魔化すように笑みを返した。