第10章 SEVEN
「あっ!渋谷さん!!」
途中、山田に会ったが女は無視して廊下を突き進む。
「楽屋です!メイク直しです!!」
山田が叫んだ。
そうやった、メイク直しするんやったな。
寝てないせいでこれから何をするのか忘れてた。
あと、正直寝不足な身体で走るのはツライ。
ノックする間も無く、ドアを開け楽屋に飛び込んだ女。
「あっ、渋谷さん急いで下さい」
メイクさんが待ち構えていて、そのまま椅子に座らせられる。
「ま、待ってや!
ちょこっとでもいいからそこで休んでいけ」
女を見ると、辛そうな表情。
無理させたのは明らかや。
肩で息する女は休む暇なくテーブルに乗っていた、新しい水が入ったペットボトルの蓋を捻り、少し緩めて俺に渡してきた。
飲めって事か?
「ありがとーな。
俺の事はいいから、お前も飲んどけ、な」
頷く女を確認して俺は大人しくメイクしてもらった。
ほんまなら、女を医務室に連れて行きたい。
だが、周りの雰囲気的にそんな余裕はなかったんや。
「し、渋谷さん、良かった、来てた」
呼吸が乱れたまま、ヘロヘロな山田。
俺たちを見た瞬間、ハッとし安心した表情をしたかと思えば青白く何かに怯えた表情に変わる。
「す、す、済みませんでした!」
はぁ?何がや?
俺は謝る理由はあるが、山田に謝る理由なんてないはず。
「山田、その女医務室に連れて行ったって!」
癪だが山田以外に頼めるヤツはいない。
だが、女は再び首を横に振り部屋を出て行こうとする。
「待てって」
「マル急いでやっ、おっと!
ごめん、大丈夫?」
出会い頭にヤスが入ってきて、女とぶつかりそうになった。
蹌踉めく女を受け止めるヤス。
「ヤス、その子ソファに寝かせて。
熱あるねん」
「ほんま、君熱いで。
寝な、それがええ」
抵抗する体力さえないのか、大人しくヤスに従っている。
あかん。
最初の元気が全くないやん。