第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
言葉に出来ない感情に、胸が熱くなり目に涙が溜まる。
「ヒヒ…どうしたのお嬢様?」
気づけば私は導かれるように言葉を発していた。
「く、くださ…い」
「ください?なにを?」
「ひぁっ…」
ペン先が挑発的に鎖骨をなぞった。
「…はやく、はやく…!」
「ククッ、こんなクズ執事に見下されて喜んでるとか、変態ですねお嬢様」
「よ、喜んでなんかないっ」
耳の裏をペンが這って肩が震える。
「嘘はダメ…。ずっと思ってたけど、おれもアンタも同類、ゴミクズ同士。みんなからチヤホヤされてるのがホントは退屈だったんだろ?待ってたんでしょ?こうやって誰かに虐められるのを…」
「……っ!」
結んだ唇を指でこじ開けられる。
「ほら、このだらしない口で言ってみなよ?ヒントがほしいって」
「ん…」
「早く」
「…ほし、い…ほしいれす…」
「はーぃもういっかーーい」
歯列をつうっとなぞられ上手く話せない。
指は悪戯に舌の裏へ潜り込み、ウネウネと蠢いている。
「ぁ…ふぁ…っ」
「さっきからなに物欲しそうにおれを見てんの?見つめる許可なんてしてないんだけど」
「ご、ごめんらさい…」
話そうとすれば舌に指が絡まりぐちゅぐちゅと水音がする。
「ほら早く言えって。一松様のが欲しくてたまらないですって」
暗黒笑顔に見下げられ、羞恥心を煽られる。
「いっ、いちまつ、さまの…」
私ってば、なんてはしたないんだろう。
まるで舌を垂らした犬のような私を、一松は恍惚の表情で見つめている。
逃げたいと思う反面、なぜだかその瞳に魅入られ心が鎖で縛られる。
魔性を秘めた瞳に、魔術でもかけられてしまったのかもしれない。