第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
頭の上に"?"が浮かぶ私を見て、一松はノートにサラサラと方程式を書いていく。
「だから……係数をとりあえず1にして、ほにゃららをほにゃってほにゃほにゃればほにゃらるるから。で——」
シャーペンの動きが止まる。
「はい問題、この方程式は合ってる?」
「え?分かるわけないでしょ」
「答えて。間違えたら最初のページからやり直しだよ…」
「それはいや!」
「なら正解をどうぞ…」
空間が歪むんじゃないかというレベルの薄気味悪い笑みを浮かべる一松。
なんだかとっても楽しそう。
「うーーーん」
シャーペンを顎に当てて悩んでいると、今度はおどろおどろしい声で囁かれる。
「…アンタさぁ、由緒ある藤子財閥のお嬢様なんでしょ?これくらい1人で考えられなくてどーすんの?まさかライフライン使うなんて言わないよなぁ?アッハァ!」
「もうっ、なんでそんな意地悪言うの!?」
「意地悪じゃアリマセンよ。"教育"ですから」
(なんなのコイツ。人を虐めて楽しそうにして変なヤツ!)
ギロリと自分なりにキツい目つきで睨んでやったのに、それすらも嬉しそうにしている。
と、ペン先で顎を持ち上げられた。
「…ヒント欲しい?ねぇ?」
「…なに調子にのってんの?」
「は?返事はハイかイエスだろ?他に答えなんてないんだよ」
「くっ…」
言いかけた言葉を飲み込んで喉が上下する。
(悔しい…!私を誰だと思ってるの?今までこんな扱い誰にもされた事ない!でも、なんで?なぜかそんなに悪くないというか——)
苛立ちと共に初めての感情が湧き起こる。