第8章 お茶をどうぞ、お嬢様〜執事松〜
おそ松とチョロ松が出て行った後、トド松だけ部屋に残り私の着替えを手伝う。
これが、トド松の仕事。普通ならば女性のメイドに頼むはずだけど、"六つ子で1番女子力高い"とかいうヘンテコな理由で彼が着替え担当なのだ。
「はい、ちょっと苦しいから我慢してー」
「んっ」
ビスチェに身体を締め付けられ背筋をピンと伸ばす。背中の紐を結びながら、トド松はクスクスと微笑を漏らした。
「ふふっ、安心した。おそ松兄さんとはなにもしてないんだね」
「当たり前です。でも、どうして分かったの?」
「分かるよ。こことか——」
つつ、と指先が首筋を伝う。
「ここに跡が無いし」
指はそのままショーツの少し上を掠め、背中へと戻っていった。
「ボクがあげたボディークリームの匂いがちゃんと残ってるからね」
「調子に乗って…!」
変なとこ触らないで!と言おうと振り返れば、ピンクが目に飛び込んできた。
「えへっ。ごめんなさーい。はいこれ今日のワンピ!もちろんトッティセレクション!」
「…ありがとう」
ピンク色のワンピースを奪うように受け取り、素早く着替える。
「似合ってますよお嬢様!さっすがボク」
「こら!離れて!」
背中のファスナーを上げてもらうのまではいいけど、ハグなんて誰も許可していない。
腕をバタつかせて抵抗する。
「あれ?顔赤ーい。ただワンピの形を整えてるだけですよ?」
「嘘つき!離してってば!」
「……ねぇ、そういう恥ずかしがり屋さんなとこ、ボクらを煽ってるって自覚してる?」
唐突な低い声にドキリとする。
意外。トド松ってこんな声出るんだ。
異性として意識したことなんか一度もなくて、というか、人間として認識したことがなかったけど、今のはちょっと色っぽかったような…。
「ま、いーや」
トド松は私からサッと離れると、懐中時計(なんかすごくデコられてる)を見て一言。
「朝食の時間ですよ。お嬢様」
・・・